2012年4月10日火曜日

「医療関連感染の防止対策における看護師の役割」


 感染対策はお金がかかるだけと思われがちです。メーカーの人に「感染防止に効果がありますよ」と勧められたものをそのまま購入しているところも多いようですが、確かにそれでは経済的に非常に困難になります。

 しかし、ある病院から感染管理を依頼されて1年半ほど通ったところ、その院長から「感染管理にはお金がかかることを覚悟していたが、どうもそうではないらしい。ある面で削減できるし、お金は思ったほどかからなかった」と言われました。職員の作業の無駄を整理して簡素化でき、看護師がケアに集中できるような環境もできました。1年半で驚くほど変わったのです。こんなにも変われるものかと思いました。少なくとも感染防止にはお金がかかるだけという概念は捨てな ければいけないでしょう。

■手洗いを徹底させるために

(医療従事者が率先してロールモデルになる)
 感染が拡大する原因は患者ではありません。患者から患者へうつるのはそこに接触する医療従事者を介してです。また、医療従事者がしっかり手を洗っていれば、患者もそういうものかと思うでしょう。教えるよりもロールモデルになった方が効果的です。確かに医療従事者は忙しいと言われます。しかし、10〜20秒の手洗いが本当にできないのでしょうか。


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(手洗いの場をたくさん設置する)
 将来的には、医療施設には手を洗える所をたくさん作ることが大切です。手を洗う場所がないのに手を洗えと言っても無理です。また、水がはねないような形を考えること、そこに必ずペーパータオルの設備をつけること、そばに手袋が置いてあることも大切です。ペーパータオルの紙は上等なものでなくても構いません。エアタオルはなかなか乾かず時間がかかるので、医療現場にはあまりふさわしくないでしょう。

(見られることの効果)
 手洗いの徹底には、本当に手を洗えているかという何らかの観察が必要だと思います。
 以前、MRSAが発生し、荒れるほど手を洗って� ��るという医療機関がありました。職員の手荒れがひどいというので、手荒れのしない方法を考えたいと思い、伺ってみました。確かに見ていると、一生懸命に手を洗っていました。しかし、観察に行った途端にMRSAが出なくなったのです。出なくなってしまったので、検討の余地がなくなってしまいました。このように、他から見られているだけで、職員の意識が変わり感染防止の行動がとれていることがあります。


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 また、ある学生が卒論研究でホーソン効果(監視効果)の調査をしたいというので、ICUの手洗い調査をしてみてはと提案したことがあります。ICUではMRSAが多いと言われているからです。そうして観察してもらうと、何とそのICUではMRSAが出なくなったのです。やはり見てあげるということが大切かもしれません。

 私は「監視」という表現は好きではありませんし、指をさしてあそこはよくない、ここはだめだと言って回るのも嫌いです。大人はけなされたり、欠点を見つけられたりするのはいやなものです。見に伺うのはその人が必要としているときに、需要があるタイミングを狙うことが大切だと思います。人に見られるのは大切ですし、そういうと きに習慣がつきます。また、「皆さんの努力でMRSAが全く出なくなりました。すごいですね」とほめてあげることも大切です。

■医療現場へのアドバイス


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(サーベイランスで発生の有無を把握する)
 まず、医療関連感染が本当に病院の中で起きているのか起きていないのかを把握するのが手始めだと思います。それにはサーベイランスという方法があります。
 対患者のサーベイランスとしては、ある疾患定義に基づいて患者を観察し、それが病院の中で起きた感染かどうかということを判断していきます。例えば、中心静脈カテーテルを入れている人の中で血流感染が起きている割合、尿路カテーテルから感染が起きている割合、などを把握します。
 また、対医療従事者のサーベイランスとしては、針刺しが本当にあるのかないのか、どうやったら減るのかを把握します。感� ��防止は注意すればよいと精神論で片付けられてしまうことが多いのですが、注意のレベルでは出来ないことがたくさんあります。針刺しはどういう行動が一番危ないのか、どのように針を捨てたら安全なのか、そういうことがたくさん研究されていますので、それらを自らの施設で実施し、本当に針刺しが減ったかどうかを検証していくことも大切です。


 例えば、EPINet(Exposure Prevention Information Network ;エピネット)システムがあります。これは、2種類の報告書(針刺し・切創報告書、血液・体液汚染報告書)と、それぞれの報告書のデータを入力・解析できるソフト(日本版は職業感染制御研究会が開発)によって構成されています。こういうものを使って、実態を正確に把握し、原因調査を行うことが重要です。

(基本はスタンダード・プレコーション)
 例えば、SARSの患者は額に「S」と印をつけてくるわけではありません。救急センターに呼吸困難で入ってきます。その方への挿管方法を間違えると感染してしまいます。しかしスタンダード・プレコーションとして、手袋をしてマスクをきちんとして挿管すれば、うつる確率は低くなります。「SARSだから大変」といいますが、そうではありません。感染とわかる前� �らしておくべきこと、予防に重点を置くことが大切です。
 自分を守り、患者も守る。これが感染管理の究極の目的です。これに経済的効果を加えて考えると、やはりスタンダード・プレコーションが大切だと思います。


 下図は米国疾病管理予防センター(CDC=Center for Disease Control and Prevention)が作成したポスターを改変したものです。こういうことを一般の人に広めるのが効果的だと思います。SARSや鳥インフルエンザが出てきて以来いろいろと言われるようになりましたが、まず、どうやって広がっていくのかを考えていくことが先決です。このポスターは、咳をするときのエチケットは昔からあったはずだという発想から作られたものです。



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